Back To Sea
act.11 聞きたくない
次に目をさましたとき、シーアがいたのはベッドのうえだった。窓からあかく輝いている海が見える。夕焼けだろうか?西の空が真っ赤に染まっていた。
体中が重くて、身動きできない。
ここは何処だろう?城であることは間違いないようだ。
そしてもう一つ確かなのは、シーアが生きているということ。現に自分はここにいるのだから。
「目を覚まされましたか」
ドアが開き、金髪の青年――リカルドが入ってきた。その瞳は暗く沈んでいる。その姿を見て、一体どんな刑を下されるのだろうかとシーアは考える。
「リーシャと同じように・・・私も火あぶりにするの?」
そして皮肉を吐き捨ててやる。その言葉を聞いた途端、リカルドはボロボロと涙を流し始めた。
「私が……私だけがあの子を守れたはずだったのに。
信じてあげられなかった。バーニアの嘘を信じてしまった。あの子を愛していたのに」
ワッとリカルドがシーアの寝ているベッドに顔を伏せた。そして壊れた人形のようにごめんなさいと繰り返す。でもシーアにとって、そんなことはもう、どうだって良い。リーシャは帰ってこない。途端に笑いが込み上げてきた。
「くっ…あはっ……あははっ。何泣いていらっしゃるの?
リーシャを殺したのはあなた達でしょう?愛していた?笑わせないで。
結局貴方は、政略結婚に打ち勝つ勇気がなかったんでしょ?
本当に…本当に愛していたならっ守ってあげられた……はずで…しょ……!?」
最後はもう言葉にすらできず、嗚咽が混じっていた。
もう何もわかりたくない。この王がリーシャを愛していたなんて、認めたくない。認めてしまえばそれこそリーシャの死は無意味だったと思い知らされるから。
「ねぇ、あの子は貴方を愛していたのよ。全てを犠牲にして、陸へ上がったわ。あの子はね、信じれば願いは叶う、努力は報われるって考える子供だったのよ。ほんとに馬鹿な子だった。
…でもね、誰よりも幸せになってほしかった」
シーアは腕で涙を拭った。本当に陸へ来てからというもの、嫌なことばかり、涙を流してばかりだ。一体いつからこんな弱虫になってしまったのだろう?
リカルドが顔を上げた。その目は涙で赤い。シーアはそんな彼に言葉をかける。
「…生きて倖せになって。リーシャはきっとそれを望んでいるから」
リーシャならきっとそう言うだろう。死なずに生きてほしいと。
「……あぁ。リーシャのためにも生きてみせる。約束する」
リカルドは憎い。リーシャが陸に上がったのは、端的にいえば彼のせいだから。でも、彼を殺したって、あの子は絶対に喜んではくれない。
だから、これでいい。この人が幸せになれば、あの子は喜んでくれるから。
そして私はここで死ぬ。きっと海になんて帰れない。この手を血で染めたのだから。
「アト泣くかな?私が死んだら」
「もちろん。」
……独り言のつもりだったのに。
「アト」
ドアにもたれ掛かって微笑みながらアトはこちらをみていた。
「貴方でしょう? 王にあのことを言ったのは」
「あぁ、だからお前を殺したりはしないってさ。悪いのはバーニアだから。
あの女、魔女だったんだ。死んだ後な、途端に白髪のババァになりやがった。きっとこの国を支配するために隣国の王女に成り代わってたんだ。恐らく本物のバーニア嬢はもう……」
そうか、魔女だったのか。ならばリーシャの正体を知っていても不思議なことではない。
シーアはゆっくりと身を起こした。たまらなく海が恋しい。窓からはシーアの住んでいた海が見える。
「ねぇ、アト。どうしてリーシャは人を好きになったのかな?大人しく海で暮らしてさえいれば、何不自由ない幸せな暮らしが出来たはずなのに。どうして淡い希望を持っちゃうんだろうね」
なんて馬鹿な子なのだろう。あんなにみんなに愛されていたのに。
「どんなに多くに愛されていても、いつだって人は満たされないんだ。リーシャは……たった一人の愛がほしかったんだよ。それがリーシャにとって、リカルドだった」
「そう……」
何となくだけれど、そのニュアンスはわかったのでシーアは朧気に頷く。そんなシーアを見て、アトは言葉を続けた。
「シーアにもそんな奴が見つかるよ。たとえば・・・俺とか」
アトが歩み寄り、クイッとシーアの顎を持ち上げる。それはいつもの挑発的な眼差しだった。
「馬鹿なこと言わないでよ……貴方にとって私はただの恋人代わりでしょう?」
シーアはサッと目線を逸らしてそう言い放つ。そして、自分で言っておきながら酷く傷ついた。
そうだ。私と彼の間には何の感情もない。
気付かないで。おねがい。
気付いてしまえばここを離れたくなくなってしまう。
あれはきっと幻だったのだ。アトが…抱きしめてくれるはずないじゃないか。恋人のふりをしているだけの女をあんなに強く抱きしめるはずがない。
シーアはそう自分に言い聞かせる。
そんな彼女の気持ちとは裏腹に、彼は言う。
「俺は、シーアが好きだ。
シーアと、倖せになりたい」
今一番聞きたくない言葉を、シーアは聞いてしまった
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