それから、どうなったかというと。
なぜか意気投合しちゃった私たちは、王子への悪口大会を始めてしまった。

薬品やら蛙の干物やらがてんこもりになったテーブルから、その山をザッと大雑把に手で端に寄せて私たちは向かい合わせに腰掛けていた。話してみると、クロエさんは姉御肌で気風の良い人だった。
「……あはっ、とんだ災難だ!」
「そりゃあもう。たかが靴がはまちゃっただけなのに、妃だなって信じらんない」
クロエさんは私が王子の妃候補になった経緯を聞いて、さっきからずーっと笑い転げている。
むーん、そんなに面白い話かなぁ。確かに私も他人事なら笑っちゃうけど。
「あいつ、訳わからんとこあるからねぇ。セティも大変だな」
「訳わかる所があるかどうかも疑問ですよ。会話が続いたためしがないもん」
クロエさんはまるでビールを飲むかのようにコーヒーをグイッと喉に流し込んで笑った。

しかし、次の瞬間その笑みが固まり、すーっと目を細めた。家の中をゆっくり、一周ぐるりと見回す。 そしてわたしの腕をグイッと引っ張って耳打ちをする。

「ごめん……囲まれたみたいだ。セティはそのまま座ってじっとしてな」
「は?」
私が状況をつかめないままぽかんとしていると、クロエさんはゴミの山の中から棒切れを引っ張り出した。ソレを見て、ちょっと驚いたような顔をしたかと思えば今度は呆れた様子で呟いた。
「あちゃ、折れちゃってる。まーいいや」
そう言って、扉に向かって一振り。
カチャリと音がして扉が開く。

そこには……お約束というか、ね。
「やぁ、セティがお邪魔してるらしいね」
レイが、居たのでした。

「うげ、やっぱり」
うめくような声の主は私だけではなく、クロエさんと一言一句違わずにはもってしまった。
王子はまるで何事もなかったかのようにニコニコとしている。そして王子が手を上げると、さっと数人の兵士が私を取り囲んだ。……っていうか、なんであたしが取り囲まれるの?
「何さ、ちょっと借りただけじゃないか。壁(へき)の奴らを連れてくるこたぁないだろう」
その様子を見て、クロエさんはやれやれと頭を掻いた。どうやらクロエさんは状況を飲み込めているらしい。ということは、わかってないの私だけ?
にしても、ヘキってなんだろう。聞いたことがない。この人たちのことなのだろうか。
「私は臆病だからな。魔法が効かない壁隊はこういう時心強いんだよ」
あ、そういうこと。壁隊さん使って私を守っているのか。……クロエさんってそんなに危険だっけ?
「ウソつけ。どのつらさげて臆病とかいってんのか」
クロエさんの悪態を無視して、王子がこちらを見た。が、私とは一向に目をあわさない。何なんだこの男。私を助けに来たんじゃないのか! そして機械的に言う。
「……君たちはセティをわたしの馬に乗せてくれ。丁重にな。私はクロエとはなしがある」
兵士のうち、一人だけ格好の違う隊長らしき人物が、短く返事をしてわたしの手を取った。私は扉から出るとき一度だけ振り返ったが王子はこちらを見ようともしない。その代わりにクロエさんと目があい、彼女は笑ってひらりと手を振った。が、王子はやっぱり後姿。背中で何かを語る気なのかってくらいこちらを見ようとしない。
……あの王子はなんなんだ! 人がせっかく友達になろうとしているのにっ。

そして、扉が閉ざされた。



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