第四章:ラスボスか英雄か
それが現れたのは、のどかな昼下がり。ティアナとエドヴァルドが、雑談していたときのことだった。
エドヴァルドは、体を横たえており、ティアナはそれを椅子の背もたれのように寄りかかっていた。最初のころではありえなかったが、最近ではこれくらいは当たり前だった。エドヴァルドはめったなことでは怒らないらしく、ティアナがする大抵のことは目を瞑ってゆるしている。
話が『今日の夕飯は何か』になり、ティアナがカレーだと主張したとき、エドヴァルドがふと、何かに気付いたらしく首をもたげた。
「ティアナ、私の後ろに隠れろ。……早く」
彼は口早にそう言うと、その巨体を起こした。
「え?」
「……侵入者だ」
その言葉に、緊張が走る。ティアナは言われたとおりに、素早くエドヴァルドの後ろに隠れた。複数のかけてくる足音が聞こえる。ドアの前で、その足音が一瞬止み、次の瞬間――
「姫! 助けにきました!!」
ばぁん、とドアが蹴破られて、青年が現れた。それに続いて、仲間らしき男女三人が部屋に侵入してくる。そして青年はエドヴァルドを見るや否や、雄たけびを上げた。
「あぁ、なんと醜い化け物だっ。この勇者が成敗してくれる!」
青年は、腰に携えた剣を抜くと、エドヴァルドに向かって突進してきた。せっかくなのだから……もうすこし前置きが欲しいものだ。
『ぺちん』
エドヴァルドの逞しい尾が、青年の体をハエでも叩くかのように打ちのめす。仲間の下へ飛ばされる青年――もとい、勇者は、身を起こすと躍起になって叫んだ。
「い、今のはちょっぴり油断しただけだ!! 姫、待っていてください。この化け物からあなたを救い、その暁には結婚式を!!」
「は?」
「救われた姫が勇者に恋をして結婚するのは英雄譚のセオリー! あぁ、心配なさらないで姫。この化け物が大地に沈むころにはあなたもきっと私にぞっこんですっ」
自分に陶酔する勇者を横目に、エドヴァルドが当惑した声で尋ねた。
「なんなんだ。この者は……」
ティアナは「知らない」と答えようとしたが、それを打ち消すかのように、青年が叫ぶ。
「良くぞ聞いた! 私は由緒正しき勇者の血を引くもの、アレックスだ!! 冥土の土産にその名を愚かな脳に刻むがよい」
要は、熱血勘違いヒーローか、とティアナは多少ばかりため息をついた。何だか緊張した自分があほらしく思えた。
「……よし、接近攻撃が駄目なら、これでどうだ! うなれ! 聖なる矢、ホーリーアロー!!」
そのまんまの技名を叫び、青年の手のひらに、光る矢らしき物が現れた。ソレを見て、背後の仲間たちの顔が青ざめる。そしてそのうちの一人である僧侶らしき人物が叫んだ。
「止めろ、アレックス!! おまえ、自分のノーコンを忘れたのかっ」
その言葉に青年はウィンクを返してこう叫ぶ。
「大丈夫!! 今日は当たりそうな気がする!! なんてったって、ラスボス戦だからなっ。いけえぇ!!」
何ともご都合主義を所望の様だ。
しかし、そのとおりにはならないのが現実。
放たれた矢はエドヴァルドを掠めることなく、大きくカーブをして
「ティアナっ」
背後のティアナに。
ティアナは、思わぬ方向から迫り来る矢に、ギュッと目をつぶった。
――当たるっ――
だが、いつまでたっても痛みはこない。
そのかわりに伝ってきたのは、頬に生暖かな感触。
目をあければ、そこには
苦痛に顔をゆがめる彼の顔が。
自分の頬には、滴り落ちてくる赤い液体が。
「エドヴァルド!」
――翼を矢に貫かれたエドヴァルドが、そこにいた。