第二章:お前を守る
「突然の無礼を赦してくれ。だが、これ以外思いつかなかったのだ」
自分をここまで連れ去ってきたドラゴンが、深々と頭を下げた。ティアナには何がおきているのかさっぱりわからず、この目の前の巨大なドラゴンを見つめることしかできなかった。ドラゴンは頭を上げると、まっすぐにこちらを見つめてきた。
「お前も知ってのとおりだが、私はお前の国に狙われている。……防ぐだけなら、お前の国を血の海にすれば話が早い。だが、私とてその様な真似はしたくない。だから、国王がへたに手出しできぬように人質としてお前を攫ったのだ」
父の言っていたドラゴンとは、彼のことらしい。ティアナは竜の方をしっかりと見つめると、声が震えないように心で念じながら口をあけた。
「そんな、そんなことをしても、父は侵攻は止めません。一度だってこんなことに屈していたら、国の威厳が保てないもの」
そう、ここで屈してしまえば【あの国は姫を攫えば言うことを聞く国だ】と思われてしまう。もし今条件を呑んで、姫を返してもらったところで、それ以後姫が危険に晒されるのが目に見えている。それならばいっそのこと、姫の身を犠牲にこの国に攻め入り、竜を倒した方が良策とされるかもしれない。
「私は、きっと人質には適しません」
だから、国へ返して。と
竜はその言葉に、小さく首を横に降った。
「そんなに自分を軽視しない方がいい……お前は国の宝といわれる娘。それをいとも簡単に諦めるとも思えない。……それに、もし仮に、お前が言うようなことが起きたときは」
そこまで言うと、竜は先ほどよりも深く、地面に付きそうな程頭をたれ下げて瞼を降ろした。
「……そのときは、命をかけて、私がお前を守る」
「その危険が、私のせいならば、私にはお前を守らなければならない義務がある」
誘拐犯が、還るべき場所に見放された姫を、守る?
この誠意ある態度は、何。
これには、流石に姫も言葉を失った。
彼は、人間ではない。
それでも、ティアナにはその言葉で頬が熱くなるのを止めることができなかった。
人間の男にですら、そんなこと言われたこともないのに。
この竜ときたら、いたって真面目な声でそんなことを言う。
【誘拐犯=悪人】これが常識だったのではないか。
誘拐犯に、【守る】だなどと宣言された人質が、いくらほど居るだろう。
もう、ここまで言われたら、首を縦に振るしかできなかった。