第一章:攫われた宝

ティアナはその日、とても憂鬱な気分に見舞われていた。事と次第によっては……近いうちティアナは、海の向こうの国に、嫁ぐ羽目になってしまうのだ。その国は大変大きく、父である国王はこの縁談を大変喜んでいた。だが、結婚するその当人であるティアナからしてみれば、良い迷惑だった。先日、相手である王子の肖像を見せてもらったところ、これがまたとんでもなく……とてもいいにくいが、……お世辞にも見目麗しいとは言えない風貌であった。しかも噂に聞くところでは、マザコンの上に、自分の思い通りにならないことがあればすぐに駄々をこねる男らしい。
 美姫よ宝よ、といわれ育てられた。勿論それに見合う容姿を持っていると、自意識過剰ではない程度に自負もしている。それが、よりにもよってそんな男に一生を捧げるだなんて、考えられない。だが、両国王と相手方の王子は、ティアナの意思など全く意に介さず、すっかりその気になっている。父に至っては、婚礼の祝いに、隣国にいると言われている竜の首を献上するなどと躍起になっていた。
 隣国は変わった国で、王がいないと言われており、表立った外交もない。王城には古くから王の代わりに竜が巣食っているとされ、かつての王はその竜に殺されたのだとおとぎ話にもなっていた。
 王の居ない隣国がなぜ今までどの国にも占領されなかったのかといえば、その国全土に高位魔術がかかっているらしく、誰かが侵入しようものならば、国全土に広がる森が、迷いの森へと変化するのだ。また、その国には様々な魔物が跋扈しており、誰も好き好んであんな国を支配しようとしなかった。
 だが、今度ばかりは父も本気らしい。半年ほど前から呪術師やら魔導士やらを集めて策を講じている。もしかすると、もしかするかもしれない。可能性は、どんな時だって0じゃない。
 もし、竜の首が獲れたなんてことになればこの縁談はたちまちまとまってしまう。どうにかならないものか。と、出窓のところで頬杖をついて瞳を閉じ、瞑想していると、城下のほうからたくさんの悲鳴が聞こえてきた。ティアナは何事かと瞼を持ち上げ、そして広がる光景に、その目をいっそう見開き息を呑んだ。

そこには、全身をうろこで覆われた気高き魔獣――ドラゴン――が羽ばたいていた。


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